「ブランディングやデザインをやってるんだけど、商標登録とか意匠登録とかよくわかんない」というひとに知っておいてほしい商標や意匠の話

日頃、弁理士業を通じていろいろなクライアントと関わっていると、痛感することがある。
それは、「本当にそれが必要なひとたちにこそ、商標登録や意匠登録について、全然知られていない」ということである。

なにも、ぼくたち弁理士のようなその分野の専門家だけがよくわかっていればいいような、小難しい法律論や細かな手続の話をわかっていない、ということではない。いわゆる「キホンのキ」というか、最低限これだけは知っていないとソンするよ!とか、手遅れになるよ!というレベルの話が、知られていない、ということだ。

これは、彼らに対し「こんなことも知らないのかよ!」ということを言いたいのではない。
むしろ、必要なひとたちに対して、最低限の知識の備えすら、ぼくたち専門家が届けることができていない、ということを痛感して、一丁前に、ある種の責任のようなものを感じてしまうのだ。

そこで、「ブランディングやデザインをやってるんだけど、商標登録とか意匠登録とかよくわかんない」というひとに最低限知っておいてほしい商標や意匠の話、をしてみたいと思う。

1.何かしら「デザイン」とか「ネーミング」とか考えたら、ほかの誰かに見せる前に、専門家に相談して。頼むから。

まずはこれに尽きる。
とにかくこれに尽きる。

これは、ぼくたちの仕事になるから!ということではない。(もちろん仕事になるに越したことはないけど)
一言でいうと、「手遅れ」なるからである。

大きな理由は次の2つである。

  1. 守秘義務のない他人に見せると、もう「意匠登録」できなくなる
  2. 他人が先に商標登録出願してしまうと、自分が先に考えたり使い始めてたとしても、その「ネーミング」や「デザイン」を使えなくなる

まず、何かしら「デザイン」を考えた場合、「意匠登録」できる可能性がある。じつは「商標登録」ができる場合もあるが、装飾目的のデザインであれば、まずは真っ先に「意匠登録」を考えるべきである。
「意匠登録」をしようとする場合、登録の第1条件は、「守秘義務のない他人にまだ知られていないこと」だ。これが意外と、デザイナーさんやブランディングに携わる人たちに知られていない。ちなみに、弁理士には、法律上当然に依頼者(相談者)の秘密を守る義務が発生しているので、ちゃんとした弁理士に見せる分には問題ない。

多少「抜け道」もなくはないのだが、細かいことを説明するとおそらくかえって混乱するので、とにかく、「守りたいデザインなら、気軽に他人に見せるな!」なのである。

他方、「ネーミング」などの「商標登録」をしようとする場合には、登録の条件に「守秘義務のない他人にまだ知られていないこと」というものはない。
だから、この意味では、他人に見せたら即アウト!というわけではない。

なのだが、逆に「商標」の場合は、すでに世に知られているものであっても、まだだれも商標登録(出願)していなければ、だれでも後から「商標登録」できてしまうのである。

つまり、結局は、自分が「商標登録」についてのケアをする前に、他人に見せてしまうと、他人に「先を越される」ということがおおいにあり得るのである。
だからやっぱり、「専門家に相談する前に、他人に見せるな!」なのである。

僕としては、以上のように思っているのだが、世の中には結構「弁理士に相談するのは敷居が高い」みたいに考えておられる方もいらっしゃるようなのだ。
たぶん、相談すると「はい。今日の相談料◯万円です。」みたいに言われると思われているのではないだろうか。

これについては、僕としては、「ほんとに気軽に相談して!」という一心である。
もちろん弁理士は、相談業務もプロフェッショナルな仕事としてやっているので、「なんでもタダ」というわけではない。それは逆に無責任ですらある。
ただ、おそらく「まともな」弁理士であれば、事前の合意なく「いきなり費用請求」みたいなことはしないと思う。
少なくとも僕はしない。まずは無料で依頼者の話をきいて、「それならこういう手当てをしていく必要がありますね」という「みちしるべ」みたいなものを示して、それに必要な費用も説明し、その上でご依頼いただくことになってはじめて金銭が発生するのである。

逆に、相談に来られる前に「他人見せちゃいました」という状況だと、いくらお金を積まれても「登録できない」ということも往々にしてあるのである。

だから、とにかく、

ほかの誰かに見せる前に、まずは専門家に相談して!

なのである。

2.商標登録と意匠登録は何がちがうの?

「商標登録」と「意匠登録」。
この違いがわかるだろうか?

経験上、あまり区別がついていない人が多い。
無理もない。そもそも、「商標」はまだしも、「意匠」なんて言葉からして一般的には馴染みがない。
僕が大学生で初めて知的財産法を勉強したとき、「意匠権」のことを、しばらく「イタクケン」とか言っていたことが懐かしい。

それはともかく、「商標登録」と「意匠登録」の違いである。
どちらも、「見た目」的なものを登録できるので、一見似ているのだが、
ビジネスのために商標登録や意匠登録を必要としている人たちにこそ、根本的な「違い」をぜひ知っておいてほしい。

細かいことをいえば、法制度を含め、違うところはたくさんあるのだが、
ここで押さえておいてほしいことは、「守ろうとするもの」が全く違う、ということである。

<守ろうとするもの>

 商標登録   信用 
 意匠登録  デザイン

 

え?と思う人もいるのではないだろうか。
たぶん、「商標」の方に違和感を感じることと思う。
「商標登録」って、「ネーミング」や「マーク」を守るものじゃないの?と。

そう、実は違う。
表層的には合っているけれど、根本的には全然違う。
「商標登録」は、あくまでも、業務に使った「ネーミング」や「マーク」に蓄積された「信用」を守るためのものであって、その「ネーミング」や「マーク」自体を守るためのものではない。

一方、「意匠登録」は、創作した「デザイン」を守るためのものである。
こっちは、「デザイン」に蓄積された信用とかではなくて、「デザイン」そのものを守るためのものである。

「ネーミング」を「商標登録」できることは、一般にもよく知られていると思うが、
それ以外にも「凝ったロゴ」とか「イラスト」も「商標登録」できるせいで、
「デザイン」を守るための「意匠登録」とごっちゃになってしまうことが多いのだと思う。

たしかに、「商標登録」だって、登録するもの自体は「信用」とかいう見えないものではなくて、ネーミングやロゴ、イラストなどである。
でも、繰り返すが、「商標登録」が守ろうとするものは、ネーミングなど自体ではなく、「信用」なのだ。
一方、「意匠登録」が守ろうとするものは、「デザイン(創作物)」自体。

この違いを理解していることが、「商標登録」と「意匠登録」を使い分けるために、非常に重要である。

たとえば、「ブランディング」をしようと場合、ネーミングも含めた「デザイン的な要素」を考え出すことは絶対に必要だ。
そして、そこで考案された「デザイン的な要素」を、その「ブランド」を育て守っていくために、「他人が真似できない」状況にしておくことが大切になってくる。

そうすると、大体の人は、なんとなくの感覚で、
「商標登録?意匠登録?したいんですけど・・・」
となるのだが、
効果的に「ブランド」を守るためには、
ここで、上記のような「商標登録と意匠登録の違い」を押さえつつ、両者を意識的に使い分けることがとても重要なのだ。

では最後にもういちど。

商標登録は、「信用」を守るもの。
意匠登録は、「デザイン自体」を守るもの。

 

3.商標登録と意匠登録を使い分けるポイント

では、「商標登録」と「意匠登録」のこのような「違い」を踏まえ、どのように使い分ければいいのだろうか。

簡単である。

あなたが今、商標登録しようか、意匠登録しようか迷っている(商標や意匠、なんて小難しいワードが頭の中に浮かばず、「何かで守りたいなー」でも全く問題ない!)もの、

つまり、「ネーミング」なり、「ロゴ」なり、「イラスト」なり、「Webサイトのデザイン」なり、「プロダクトデザイン」なり、「色」なり、「音」なり。(便宜上、ここでは、これらを「ブランド要素」と言おう)

この「ブランド要素」一つ一つについて、次の点を「自分に(自分の組織に)」問えばいいのだ。

  1. あなたは、その「ブランド要素」が、自分の「信用を表すツール」になると思うか(したいと思うか)?
  2. あなたは、その「ブランド要素」について、それ自体に新しいデザイン的価値があると思うか?

 

上記「2.商標登録と意匠登録は何がちがうの?」を読んでくれた方であれば、

1がYesなら → その「ブランド要素」は「商標」と捉えるべき → 商標登録を考える
2がYesなら → その「ブランド要素」は「意匠」と捉えるべき  → 意匠登録を考える

となることは、簡単にわかるだろう。

ちなみに、どちらか一方に絞る必要は全くない。
1つの「ブランド要素」が両方に該当し、「商標登録も意匠登録も両方したほうがいい」場合も、大いにあるからだ。

商標や意匠などの知的財産のことに少しでも触れたことがある人なら、
「なんだこんなことか。そんなことは知ってるわ。」
とお思いになるかもしれない。

だが僕は、特に「ブランディング」に活かす、という観点からすると、

上記1と2の「問い」を「自分に(自分の組織に)」投げかける

ということが、とても大事なのではないか、と思っている。

なぜなら、
特に「1」の問い、すなわち「商標」と捉えるべきか否かは、

その「ブランド要素」を、「信用を表すツール」として使う「意思」が、「あなた」にあるか

が重要だからだ。

「商標登録」が「信用」を守るためのものである、ということは、

「信用」が蓄積されていない(あるいは、今後も蓄積されない)ような「ブランド要素」は、「商標登録に値しない」

ということだ。

この「商標登録に値しない」ということには、

  1. 市場で「信用の受け皿」にならないような商標には、わざわざお金をかけて商標登録して守るような価値はない
  2. 「信用の受け皿」になり得ない商標は、「商標制度上も」保護されない

という2つの意味がある。

そして、「信用の受け皿」になるかどうかは、その「ブランド要素」を使う人の「意思」次第なのだ。

つまり、「デザイン自体」に価値がある「意匠」と違い、「商標」はそれ自体には価値がないのだから、
「商標」は、「信用を表すツールにする!という強い意思を持って、市場で使い続ける」ことで初めて「守るべき価値」が生まれるのである。

一方、「信用の受け皿」になるかどうか以前に、あなたが創作したデザインそれ自体に「新しいデザイン価値がある」といえるような場合には、それは「意匠登録」することができる。
実は、意匠について「新しいデザイン価値がある」かどうかは、「客観的」に判断(審査)されるものなので、すでに似たようなデザインが公開されていればもはや意匠登録できないのだが、そもそもそのデザインを創作した自分が「新しいデザイン価値がある」と思えないようなものは、客観的にもそう判断されることは少ないだろう、という意味で、これもまずは「自分に問う」のがいい。

商標登録と意匠登録の「使い分け」と題したが、どちらかというと「見分け方」みたいな内容になった。
だが、この記事のターゲットである「商標登録とか意匠登録とかよくわかんない」という人たちには、「どんなふうに登録しよう」とか、「どうしたら登録になるか」とか、「制度の違いは?」とか、僕たちみたいなこっちの畑の専門家が考えればいいことより前に、自分が考えたり使おうとしている「ブランド要素」が自分や市場にとってどういう価値を持つものなのか(持たせたいと思うのか)、をしっかりと自覚しておいてほしい、また、それを僕たち専門家に伝えてほしいと、僕は強く願っている。
なぜならそれが、単に商標や意匠を登録するだけでなく、「市場でブランドになる」ための最低条件だと思うからだ。

 

4.独占権を付与されるということの意味と、そのためのコストの話

商標登録や意匠登録をすると、どうなるのだろうか?
言うまでもなく、商標権や意匠権を付与されるのである。

では、商標権や意匠権を付与されるとはどういうことか?
「独占権」を付与される、ということである。

つまり、登録された商標(登録商標)や、登録された意匠(登録意匠)を、「独占的に使用できる」ということである。
「独占的に使用できる」とは、「他人が使用したら、やめろ、と言える」ということである。

そんなの当たり前じゃん、と思うかもしれないが、
これってスゴイことだと思わないだろうか?

そもそも、ここで取り上げている「商標」や「意匠」、ほかに「特許」や「実用新案」、「著作物」のような、いわゆる「知的財産」と呼ばれているものは、「目に見えない」ものである。
「目に見えない」のだけど、知的活動や、事業努力によって生み出された「創作」や「信用」には一定の価値があるので、
「無体財産」なんて呼ばれている。

このような「知的財産」というものは「目に見えない」ので、実体がない。
実体がないということは、それを誰かに取られないように守ろうとしても、「両手で抱えて守る」ということができない。
つまり、他に人に見聞きされてしまえば最後、いくらでもコピーして持って行かれてしまうのである。

実体がないのだから、こんなことは物理法則として「あたりまえ」である。

でも、それを「あたりまえ」で片付けてしまったら、誰も苦労して何かを生み出さなくなってしまう。
だから、その「あたりまえ」に持って行かれてしまった財産を、法律や国家の力で取り戻せるようにした。

これが、知的財産についての「独占権」の意味である。

私たちは普段、「商標登録すればその商標を独占できる」といった仕組みの存在に慣れすぎていて忘れがちだが、
本来、無体財産は「独占なんかできない」ということの方が、物理的に自然、という意味で「あたりまえ」なのである。

これをある意味無理やり「捻じ曲げて」、他人に「やめろ」と言える強制力を国家から付与される、というのが、ここでいう「独占権」の意味であり、「商標登録」や「意匠登録」などの意味なのでである。

もう一度言うが、これってスゴイことではないだろうか?

商標登録や意匠登録をするためには、それなりの費用がかかる。
必ず数万単位の「印紙代」を国に支払わなければならないし、手続きや相談を弁理士などの専門家に頼めば、彼らに支払うフィーも必要なので、トータルで数万~数十万単位でかかる。

これだけみると、決して安くはないかもしれない。
だが、上記のように、物理法則を捻じ曲げた強力な権利を国家から付与され、
意匠登録なら「登録日から20年」、商標登録なら「登録日から10年(半永久的に更新可)」、その権利が続く。
年単位に換算したら、数千円~数万円程度である。

それって、全然高くないんじゃないの?
と思うのである。

(つづく。次回「5.ブランドやデザインの守り方」)

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ABOUTこの記事をかいた人

ブランド弁理士。「ブランディング × 知財」を探求・推進しています。

株式会社Toreru/特許業務法人Toreru のCOO(最高執行責任者)兼パートナー弁理士。(一財)ブランド・マネージャー認定協会1級資格&認定トレーナー。日本ブランド経営学会運営委員。日本弁理士会所属。

株式会社アルバック知的財産部にて、企業目線からの知的財産保護に従事。その後、秀和特許事務所にて、商標・意匠分野のプロフェッショナルとして、幅広い業界のクライアントに対し国内外のブランド保護をサポート。2018年9月より、株式会社Toreru/特許業務法人Toreru に移籍し、2019年1月より現職。「知財の価値を最大化させる」新しい知財サービスをつくっている。 | Linkedin | メールはこちらへ

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